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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)890号 判決 1969年5月29日

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立て

各控訴代理人は、いずれも、原判決中当該控訴人に関する部分を取り消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  主張

一  被控訴人の控訴人田中に対する請求について、

(一)  被控訴代理人は、請求原因として、「被控訴人は、原判決別紙目録記載の土地を所有し、控訴人田中はその地上に同目録記載の建物を所有している。よつて、所有権にもとづき、建物収去土地明渡しを求める。」と陳述した。

(二)  控訴人田中代理人は、請求原因事実をすべて認め、抗弁として、つぎのとおり陳述した。

「(1) 本件土地は、もと木村栄次郎の所有であつたところ、相控訴人松田は、昭和二二年四月、木村から本件土地を賃借し、その地上に本件建物を所有し、昭和二七年六月二一日、その妻松田登貴美の名義で建物保存登記をした。一方、本件土地は、右木村から岩橋岩次郎へ、同人から被控訴人へと、転々売却されたけれども、岩橋のため土地所有権移転登記がされたのは、昭和二八年五月二一日で、松田登貴美の地上建物の保存登記よりも遅れている。したがつて、相控訴人松田は、その妻の右保存登記がある以上、新地主岩橋およびこれから本件土地を買つた被控訴人に対し、土地賃借権を対抗できる。

(2) ところで、控訴人田中は、昭和三三年八月九日、相控訴人松田から、代物弁済により本件建物の譲渡を受けたので、昭和四一年一月二八日の本件口頭弁論期日において、本件建物の買取りを請求する旨の意思表示をした。その当時の本件建物の時価は四〇〇万円であるから、被控訴人から右金員の支払を受けるまでは、本件建物の引渡しを拒むものである。」

(三)  被控訴代理人は、右抗弁に対し、被控訴人が岩橋岩次郎から本件土地を買つたことは認めるが、その余の抗弁事実は不知と述べた。

二  被控訴人の控訴人松田に対する請求について

(一)  被控訴代理人は、請求原因として、「被控訴人は、原判決別紙目録記載の土地を所有し、控訴人松田はその地上に存する同目録記載の建物に居住している。よつて、所有権にもとづき、建物退去土地明渡しを求める。」と陳述した。

(二)  控訴人松田代理人は、請求原因事実をすべて認め、抗弁として、つぎのとおり陳述した。

「(イ) 控訴人松田は、相控訴人の抗弁(1)に掲げたとおりの事由により、本件土地の賃借権を有する。そして、右賃借権にもとづいて、地上に本件建物を所有し、これに居住するものである。

(ロ) 仮に右主張が理由ないとしても、被控訴人は、控訴人松田が木村栄次郎から賃借していることを知りながら、本件土地を取得したものであるから、その土地明渡請求は、権利の濫用である。すなわち、控訴人松田は、かつて当時の所有者岩橋から本件土地を買う契約を結んだことがあり、これは資力の不足で実現に至らなかつたけれども、この売買をあつせんしたのは、ほかならぬ被控訴人である。そして、被控訴人は、本件地上に控訴人松田の妻の名義で登記されている本件建物のあることを熟知しながら、土地を買い、明渡しを求めているのである。

(ハ) なお、本件建物の所有者は相控訴人田中ではない。」

(三)  被控訴代理人は、右抗弁(イ)の事実中被控訴人が岩橋岩次郎から本件土地を買つたことは認めるがその余は不知、抗弁(ロ)の事実は否認する、と述べた。

第三  立証(省略)

理由

一  被控訴人の控訴人田中に対する請求について

請求原因事実は、当事者間に争いがないから、抗弁につき判断する。

控訴人田中の抗弁は、本件建物の前所有者相控訴人松田が本件土地賃借権を被控訴人に対抗できることが、その前提となつている。しかしながら、相控訴人松田が本件土地の元所有者木村栄次郎から本件土地を賃借したとしても、自己名義の建物登記がない以上、その後土地につき移転登記を経由した新地主岩橋岩次郎に対し、その賃借権を対抗することができない。このことは、相控訴人松田がその妻の名義で建物登記をしていた場合でも同様である(最高裁判所昭和四一年四月二七日大法廷判決・民集二〇巻四号八七〇頁)。そして、被控訴人が岩橋岩次郎から本件土地を買つて現にその所有者であることは、控訴人田中の認めるところであるから、相控訴人松田は、被控訴人に対しても、本件土地の賃借権を対抗することができない。そうすると、控訴人田中が、その主張のように、相控訴人松田から本件建物を譲り受けたとしても、要するに土地不法占拠者からの譲受けにほかならず、借地法第一〇条の買取請求権を行使できる余地はまつたくない。

したがつて、右抗弁は採用できず、前記請求原因事実によれば、被控訴人の控訴人田中に対する請求は理由がある。

二  被控訴人の控訴人松田に対する請求について

控訴人松田も、被控訴人の請求原因事実を認めているから、抗弁につき判断する。まず、賃借権の抗弁であるが、控訴人松田には被控訴人に対抗できる賃借権のないことは、すでに前記一において控訴人田中の抗弁を排斥する際に説明したところであるから、右賃借権の抗弁は、採用することができない。

つぎに、権利濫用の点については、本件訴訟にあらわれたすべての証拠をしさいに検討してみても、控訴人松田が本件土地を賃借しながら地上建物の登記を妻の名義にしているのに乗じて、被控訴人が本件土地を買つたという事実、その他被控訴人が本件土地を取得し本訴請求に及んだことが権利の濫用にわたるという事情は、これを認めることができない。したがつて、権利濫用の抗弁も採用できない。

右のとおりであるから、前記請求原因事実によれば、被控訴人の控訴人松田に対する請求もまた理由がある。ところが、同控訴人は、本件建物は控訴人田中の所有でない旨強調する。そのねらいは、控訴人田中の建物所有を否定して、これに対する被控訴人の建物収去請求を棄却に導こうとするもののように解される。しかしながら、右の当事者間では本件建物が控訴人田中の所有に属することにつき争いがないのであるから、単に共同被告であるというだけでは、右争いのない所有関係を否認したり、そのほか控訴人田中に関する訴訟に口をはさむことは許されない。また、仮に本件建物の所有権が控訴人田中以外の者、ことに控訴人松田にあるとしても、すでに説明したように、控訴人松田が被控訴人に対抗できる土地賃借権を有しない以上、被控訴人からの建物退去土地明渡請求を拒む理由とはならない。

三  むすび

以上のしだいで、被控訴人の本訴各請求を認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

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